富の理論の数学的原理に関する戯言

数学とその応用分野(主に経済学)を細々とやっているものです。

利潤関数の意味と使い方

今回は基礎 of 基礎

利潤関数とはなんぞやというお話です。

 

 【関連知識】

・効用関数

・生産関数

・経済学における関数の使い方

微分

 ・最大化問題の定式化

そもそも利潤とは

経済学で利潤というと、企業行動を考える際に企業がこれを最大化するように行動するだろうと仮定する経済目的です。

経済学では経済主体が各々自分の経済目的を最大化するだろうと仮定して行動モデルを構築します。

なんのことやら、という感じですよね。

経済主体は主に企業、家計、政府などを指します。

そしてそれぞれに対応する経済目的、すなわち行動目標を考えます。

企業の場合は利潤、家計の場合には効用を考えることが圧倒的に多いです。

(政府の場合は少し特殊なので一旦置きます。)

例えば効用の場合では、私たちはものを購入して消費する上で、できる限りその消費から得られる幸福感(これを効用といいます)を大きくするように行動するだろうと想定しようということです。

ここで注意しなければならないのは、ここで述べていることは企業はすべからく利潤を最大化すべしという一定不変の原理があるということではないということです。

企業が利潤だけを追求しているとは言い難い状況は多々存在します(CSR等)。

しかし、一般的な状況において少なからず企業は利潤を最大化しようと思っているはずです。(社会的責任を追及したとて、企業が存続不可能になってしまっては本末転倒)

つまり、ここで述べていることは多くの場合において利潤最大化行動というものを考えると企業の行動の良い近似になるという話で、必要ならば別の経済目的を想定することも可能であるということは注意してください。

 

利潤関数の一般的な形

利潤は計算上、総収入から総費用を引いた値になります。

さらに総収入は生産・供給している財の価格と売った数の掛け算になります。

利潤を \pi、価格を p、売った数を y、総費用を tcとすると

 \pi = py-tc

となります。

この関数を愚直に詳しくしていくと相当複雑な関数になってしまうのが分かると思います。例えばtcは実際の会計で考えると様々な勘定科目に分けられています。

 \pi = py-(人件費+水光熱費+運賃+地代家賃+・・・)

経済学の理論ではこのような詳細な区分を全て分けるのではなく、そのとき想定している問題に応じて必要最低限の区分をするようにします。(オッカムの剃刀ですね)

今回は経済学分析で比較的よく用いられる区分の方法として2つ紹介します。

  

総費用の区分① 固定費用 vs 可変費用

1つ目の区分として固定費用可変費用があります。

こちらの定式化は市場を意識した分析でよく用いられます。

固定費用は生産量の変化に関係なく発生する費用のことです。

一方可変費用は生産量に応じて変化する費用のことです。

どら焼き屋さんの例でいうと、1か月単位のお話ではお店の家賃はどら焼きを何個作るかに関わらず一定でかかる費用なので固定費用です。一方、どら焼きの原材料費(小麦粉や小豆など)はどら焼きを作るほどたくさん必要になるので、可変費用となります。

ここで注意しなければならないのは、会計でいうところの固定費と変動費とは概念が違うということです。

会計では固定費と変動費に分類されるものは決まっています。

先の例でいう地代家賃は常に固定費だし、原材料費は常に変動費です。

一方経済学の固定費用可変費用は想定する問題の設定によって変わります。

先の例では1か月単位の問題を考えましたが、10年単位で考えるとどうでしょう。もしかすると5年後には新しい店舗を開きたいかもしれません。その場合家賃は2店舗分に増えますね。新しい店舗を開けば生産量は増えると考えるのが妥当です。このように、より長いスパンで考えると家賃はもはや固定費用ではなく可変費用であると捉えることもできます。

以上を踏まえて利潤関数の定式化をしてみましょう。

まず総費用tcが可変費用vcと固定費用fcに分けることができます。

 \pi = py-(vc+fc)

vcとfcの数式上の違いはなんでしょうか。具体例で見てみましょう。

vcは生産量によって変化するはずなので、生産量yの関数として表現できます。

 vc(y) = ay^b

 b=1ならば、生産1に対して常にaだけコストがかかるという単純な関数にすることができますね。

 vc(y) = ay

一方fcは生産量に関係ないはずなので、yを含む関数であってはいけません。

他の変数を含んでも問題ないですが、今回は単に定数と考えましょう。

 fc = c

以上の想定をすると、総費用tcは

 tc = ay+c

という単純な1次関数になります。

また、総費用tcの微分である限界費用mc = \frac{dtc(y)}{dy}を考えると

 mc(y) = \frac{dtc(y)}{dy} = \frac{dvc(y)}{dy}+0

となり、限界費用を考える場合には固定費用の項は消えてしまうことがわかります。

 

次に独占の場合と完全競争の場合の利潤最大化問題を定式化しましょう。

独占における利潤最大化

独占では市場に企業が1社しか存在せず、消費者は無数に存在すると仮定します。

独占企業は競争相手がいないため、財の価格と供給量のどちらもコントロールして利潤を最大化することができます。

すると利潤最大化問題は

 \underset{p,y}{max}  \pi(p,y) = py-tc(y)

と書くことができます。

この関数を何の制約もなくただ最大化しようと考えると、pをどこまでも大きくすれば \piをどこまでも大きくできるという結論になってしまいます。

いくら1社しか売り手が居ないからといって、無限に高い価格を付けるというのは不可能でしょう。なぜなら、買い手側が支払っていいと考える価格(留保価格)の最大値より高い価格をつけてしまえば需要が0になりそもそも物が売れないからです。

ということは、消費者の留保価格がこの利潤最大化問題の制約になります。

今回のケースでは逆需要関数と留保価格関数が一致するので、逆需要関数を用います。

逆需要関数を p(y)として、利潤関数のpに代入すると

 \underset{y}{max}  \pi(y) = p(y)y-tc(y)

となり、利潤関数はyの1変数関数になりました。よってFOCは

 \frac{d\pi(y)}{dy} = p(y)+\frac{dp(y)}{dy}y-mc(y) = 0

 ∴p(y)+\frac{dp(y)}{dy}y = mc(y)

左辺は総収入を供給量で微分したものを表し、限界収入と呼ばれるものになっています。つまり、独占企業の利潤最大化の条件は限界収入=限界費用になります。

 

完全競争における利潤最大化

完全競争市場では企業と消費者の両方が無数に存在する場合を仮定します。

独占と違い、完全競争では企業は価格をコントロールできません。

価格は市場で決定される均衡価格になっており、企業はこれを所与として利潤最大化行動を考えます。(このような仮定をプライステイカー、独占のケースのような仮定をプライスメイカといいます。)

 \underset{y}{max}  \pi(y) = p^ey-tc(y)

ここで、 p^eは市場均衡価格を示します。

 p^e市場メカニズムによって決定されるものであり、企業の利潤最大化問題においては外生的に与えられる値であることが独占のケースとの大きな違いです。

よってFOCは

 \frac{d\pi(y)}{dy} = p^e-mc(y) = 0

 ∴p^e = mc(y)

つまり、完全競争市場においては、市場均衡価格=限界費用が企業の利潤最大化の条件になります。

 

総費用の区分② 労働 vs 資本

もう1つは労働と資本という分け方です。

労働と費用は経済学で想定する生産に必要な要素(生産要素)です。

例えばどら焼き屋さんでいうと、労働は従業員、資本はどら焼き製造機のことです。

企業は生産活動で得た収入のうち、労働に対しては賃金、資本に対してはレンタル料としてある程度の割合を分配します。

この分配の割合がどうなっているのかは古くから経済学の問題として議論されてきた重要な話です。(リカードさんもそうおっしゃっている!)

ゆえに、生産を意識した分析では総費用を賃金と資本へのレンタル料という区分で分けることがよくあります。

資本投入量をK、資本投入1単位当たりのレンタル料支払いをrとし、労働投入をL、労働投入1単位当たりの賃金支払いをwとすると総費用tcは

 tc = rK+wL

となります。

また、供給量=生産量と仮定して総収入の売った数の部分を生産量に書き換えます。

生産量は生産関数によって決まり、 Y(K,L)と書けるとします。

すると、利潤関数は結局

 \pi = pY(K,L)-(rK+wL)

と書くことができます。

 

利潤最大化

利潤最大化問題は以下のように定式化できます。

 \underset{K,L}{max}  \pi(K,L) = pY(K,L)-(rK+wL)

今回の制御変数はKとLです。

制御変数は企業が利潤最大化するときに調整することができる変数なので、資本と労働の投入量になるわけですね。

 \pi(K,L)をそれぞれKとLで偏微分してFOCを導くことができる。

 \frac{\partial \pi(K,L)}{\partial K} = p\frac{\partial Y(K,L)}{\partial K}-r=0

 ∴\frac{\partial Y(K,L)}{\partial K} = \frac{r}{p}

この条件は資本の限界生産力が投入1単位当たりの資本の実質レンタル料と等しくなるまで資本投入を調整することが利潤を最大化する行動であることを示しています。

 同様に労働

 \frac{\partial \pi(K,L)}{\partial L} = p\frac{\partial Y(K,L)}{\partial L}-w=0

 ∴\frac{\partial Y(K,L)}{\partial L} = \frac{w}{p}

この条件は労働の限界生産力が投入1単位当たりの実質賃金(賃金率)と等しくなるまで労働投入を調整することが利潤を最大化する行動であることを示しています。