富の理論の数学的原理に関する戯言

数学とその応用分野(主に経済学)を細々とやっているものです。

寄与度と寄与率、そして掛け算の要因分解

今回は寄与度と寄与率についてざっと見て思い出せるように簡単なまとめをしようと思います。

 寄与度と寄与率は概念的にそれほど難しくない(ハズ)のですが、いざ思い出そうとすると頭の中がごちゃごちゃしがちですよね(というか僕がそう)。

というわけで、今回は細かい概念的なことは一旦置いて、式変形を中心に簡単に説明します。

 

 

☆寄与度

説明の例として以下のGDP恒等式を使います。

 \displaystyle Y_t = C_t + I_t + G_t + NX_t

それぞれの記号の意味は以下の通りです。

  •  Y_t:  t年のYield(国内総生産: GDP)
  •  C_t:  t年のConsumption(国内の総消費)
  •  I_t:  t年のInvestment(国内の総投資)
  •  G_t:  t年のGovernment expenditure(政府支出)
  •  NX_t:  t年のNet eXport(純輸出: 輸出額から輸入額を引いたもの)

 

それでは t年の経済成長率 ( t年にGDPが何%変化したか)を計算してみましょう。

変化率は

 \displaystyle \frac{変化後の値-変化前の値}{変化前の値}

 と計算すればいいので、 t年の経済成長率は

 \displaystyle \frac{Y_t-Y_{t-1}}{Y_{t-1}}

と計算することができます。

最初に示したGDP恒等式の左辺がこの式と同じになるように式を変形すればよいので

 Y_t- Y_{t-1}  = C_t + I_t + G_t + NX_t -  Y_{t-1}

といった感じで両辺から Y_{t-1}を引きます。

 Y_{t-1}においてもGDP恒等式が成り立っていると考えられるので

 Y_{t-1} = C_{t-1} + I_{t-1} + G_{t-1} + NX_{t-1}

を右辺の Y_{t-1}にだけ代入する。

 Y_t-Y_{t-1} = (C_t-C_{t-1}) + (I_t-I_{t-1}) + (G_t-G_{t-1}) + (NX_t-NX_{t-1})

最後に、両辺を Y_{t-1}で割ると

 \displaystyle \frac{Y_t-Y_{t-1}}{Y_{t-1}} = \frac{C_t-C_{t-1}}{Y_{t-1}} + \frac{I_t-I_{t-1}}{Y_{t-1}} + \frac{G_t-G_{t-1}}{Y_{t-1}} + \frac{NX_t-NX_{t-1}}{Y_{t-1}}

となり、これが寄与度分解の式です。

寄与度分解はある変数の値の変化率をその変数の各構成項目要因に分解することだということがお分かりになるでしょうか。

例えば「経済成長率が3%だとして、そのうち消費要因は2%だった」といった考え方になります。全ての構成項目の寄与度を合計すると経済成長率に一致します。

 

☆寄与率

ここまでくれば寄与率は簡単で、寄与度は全ての構成項目を合計すると全体の変化率(ここでは経済成長率)に一致しましたが、寄与率は全ての構成項目で合計すると1になるようにしたものです。

先ほどの例を用いて説明すると、経済成長率が3%、消費の寄与度が2%の場合は消費の寄与率は

 \displaystyle \frac{消費の寄与度}{経済成長率} = \frac{0.02}{0.03} ≈ 0.666....

です。

これは寄与度の式の両辺に経済成長率の逆数をかける(経済成長率で割る)という操作に対応します。

\displaystyle \frac{Y_{t-1}}{Y_t-Y_{t-1}}  \displaystyle \frac{Y_t-Y_{t-1}}{Y_{t-1}} =

\displaystyle \frac{Y_{t-1}}{Y_t-Y_{t-1}} \displaystyle \left(\frac{C_t-C_{t-1}}{Y_{t-1}} + \frac{I_t-I_{t-1}}{Y_{t-1}} + \frac{G_t-G_{t-1}}{Y_{t-1}} + \frac{NX_t-NX_{t-1}}{Y_{t-1}}\right)

左辺は約分して1になり、右辺も Y_{t-1}が約分で消えるので

 \displaystyle 1 = \frac{C_t-C_{t-1}}{Y_t-Y_{t-1}} + \frac{I_t-I_{t-1}}{Y_t-Y_{t-1}} + \frac{G_t-G_{t-1}}{Y_t-Y_{t-1}} + \frac{NX_t-NX_{t-1}}{Y_t-Y_{t-1}}

これが寄与率分解の式です。

寄与率の合計が1になる理由がこれで明らかだと思います。

今回は例としてGDP恒等式を用いましたが、複数の構成要素の和で表すことができる変数ならなんでも寄与度・寄与率に分解できます。

 

おまけ 構成比を用いた式

寄与度の説明で【前期の各項目のシェア】が登場することもあります。

これも式を少し変えることで簡単に導出できます。

具体的には、寄与度の式

 \displaystyle \frac{Y_t-Y_{t-1}}{Y_{t-1}} = \frac{C_t-C_{t-1}}{Y_{t-1}} + \frac{I_t-I_{t-1}}{Y_{t-1}} + \frac{G_t-G_{t-1}}{Y_{t-1}} + \frac{NX_t-NX_{t-1}}{Y_{t-1}}

の右辺をご覧ください。

簡単化のため、消費の項だけ考え、以下のような変換をします。

 \displaystyle \frac{C_t-C_{t-1}}{Y_{t-1}} \frac{C_{t-1}}{C_{t-1}}

これは単に1をかけているだけなので、何も変化していませんね。

( t-1期の消費を t-1期の消費で割ると1)

また、(この場合は)掛け算の順番を入れ替えても問題ないので

 \displaystyle \frac{C_t-C_{t-1}}{C_{t-1}} \frac{C_{t-1}}{Y_{t-1}}

この式は t期の消費の変化率 × t-1期のGDPに占める消費のシェア(割合)になってます。しかし実質的に行った操作は1をかけるだけだったので、値自体は一切変わっていません。よって、全ての項に対してこの操作を問題なく行うことができます。

 \displaystyle \frac{Y_t-Y_{t-1}}{Y_{t-1}} = \frac{C_t-C_{t-1}}{C_{t-1}}\frac{C_{t-1}}{Y_{t-1}} + \frac{I_t-I_{t-1}}{I_{t-1}}\frac{I_{t-1}}{Y_{t-1}} + \frac{G_t-G_{t-1}}{G_{t-1}}\frac{G_{t-1}}{Y_{t-1}} + \frac{NX_t-NX_{t-1}}{NX_{t-1}}\frac{NX_{t-1}}{Y_{t-1}}

こうして、寄与度分解の式を【前期の各項目のシェア】を用いて再解釈することができました。

 

おまけ2 掛け算の要因分解

先ほど申し上げたように、寄与度・寄与率の分解は足し算(その逆の引き算も)関係の場合に適用できる方法です。

じゃあ掛け算で構成されている変数の変化の要因分解はできないのか…?というとできます

先ほどの例は需要サイドからGDPを見た式でしたが、供給サイドからGDPを再解釈します。

すると、 Y_tは以下の生産関数で表すことができます。

 Y_t = A_tK_t^{\alpha}L_t^{1- \alpha}

 今度はGDP Y_t

で構成されると考えます。先ほどの例ではGDPは複数の変数の足し算で構成されていましたが、今回は掛け算で構成されていますね。

それでは掛け算の場合はどのように要因分解すればよいでしょうか?

私たちは既に足し算の場合の要因分解ができるとわかっているので、掛け算を足し算にするような変換があれば良いようなきがします。

そう、両辺対数に変換すれば良いのです。

ここでは底をe(ネイピア数)とした対数である自然対数(natural logarithm)を使います。

先ほどの生産関数を両辺対数をとると、

 ln(Y_t) = ln(A_t) + \alpha ln(K_t) + (1- \alpha)ln(L_t) 

対数をとると、掛け算は足し算に、指数は係数になります(実は言ってることは同じ)。さらに両辺対数に変換する場合には等式関係が成り立ったままになります。 

それでは、寄与度分解と同じように、1期前の値を両辺から引いてみましょう。

 ln(Y_t)-ln(Y_{t-1}) = ln(A_t)-ln(A_{t-1}) + \alpha (ln(K_t)-ln(K_{t-1})) + (1- \alpha)(ln(L_t)-ln(L_{t-1})) 

対数の引き算は変化率に近似一致することが知られています。

(なぜそうなるかの話は機会があればTaylor展開編としてお話します) 

 \displaystyle ln(x_t)-ln(x_{t-1}) ≈ \frac{x_t-x_{t-1}}{x_{t-1}}

以上より、経済成長率

 \displaystyle \frac{Y_t-Y_{t-1}}{Y_{t-1}} ≈ \frac{A_t-A_{t-1}}{A_{t-1}} + \alpha \frac{K_t-K_{t-1}}{K_{t-1}} + (1- \alpha)\frac{L_t-L_{t-1}}{L_{t-1}}

 となり、掛け算のケースでも成長率の要因分解ができることが分かりました。