富の理論の数学的原理に関する戯言

数学とその応用分野(主に経済学)を細々とやっているものです。

n社クールノー競争(同質財異質企業のケース)

今回は企業数がn(任意の数)の場合のクールノーモデルについて書きます。

 クールノー競争は企業が自社の供給量を他社の供給量に応じて設定するという仮定を置いた競争モデルです。

一般的なn社クールノーモデルの説明では全ての企業を同質(生産性が同じ)と仮定してモデルを解いていきますが、企業が異質(生産性が異なる)ケースでもそれほど複雑にならずに最適生産量や利潤を求めることができるので、今回はそれを示していきます。

 

 

n社クールノーモデル(企業同質ver)

まず、競争している企業がすべて同質なケースのクールノー競争を解いてみましょう。

市場需要関数は以下のようなものを考えます。

 p = A - \alpha(y_1+y_2+y_3...+y_n)

 pは市場価格、 Aは最高留保価格、 \alphaは市場供給量に対して価格がどの程度反応するかの係数、 y_nは企業 nの供給量です。

市場価格は 1社から n社まで市場に存在する全ての企業の供給量の合計が増えるほど下がるという関係になっています。

以上の需要関数の下で、企業 1の利潤最大化問題を考えます。

企業1の利潤関数は

 \pi_1 = py_1 - cy_1 = y_1(p-c)

となります。ここで、 \pi_1は企業 1の利潤、 cは全ての企業に共通の限界費用です。ここでは企業は全て同質を仮定しているので、財の生産にかかる限界的なコストが全ての企業が同じであると考えます。

以上の利潤関数の pに需要関数を代入し、企業1の供給量 y_1偏微分すると

 \pi_1 = y_1\bigl(A-\alpha(y_1+y_2+y_3...+y_n)-c\bigr)

 \displaystyle \frac{\partial \pi_1}{\partial y_1} = A - 2\alpha y_1 - \alpha(y_2+y_3...+y_n)-c 

この偏導関数が0になる y_1のとき企業 1の利潤は最大になるので

 -2\alpha y_1^* = \alpha(y_2^*+y_3^*...+y_n^*) - A + c

 \displaystyle y_1^* =-\frac{1}{2}(y_2^*+y_3^*...+y_n^*) + \frac{A - c}{2\alpha}

が企業 1の反応関数になります。

企業 1は自社以外全ての企業の供給量の合計が増えると供給量を減らすという関係式になっており、これは2社ケースとほぼ同じですね。

 ここで同質企業の仮定より、全ての企業の最適生産量は同じになるので

 \displaystyle y^* =-\frac{1}{2}(y^*+y^*...+y^*) + \frac{A - c}{2\alpha}

右辺の y^*は企業 1を除く残り全ての企業数分だけあるので、

 \displaystyle y^* =-\frac{(n-1)}{2}y^* + \frac{A - c}{2\alpha}

 \displaystyle \frac{(n+1)}{2}y^* = \frac{A - c}{2\alpha}

 \displaystyle y^* = \frac{A - c}{(n+1)\alpha}

となります。以上が同質企業n社クールノー競争における各企業の最適供給量です。

企業数 nと企業の最適供給量は反比例していることがわかり、競争相手が増えると供給量を減らすという関係が見て取れます。

 

ちなみに市場全体の総供給量 Y^*

 \displaystyle Y^* = ny^* = \frac{n}{n+1}\frac{A-c}{\alpha}

となります。 A c \alphaが一定だと仮定すると、企業数 nの市場供給量 Y^*への影響は \displaystyle \frac{n}{n+1}の項で決まります。この項は nが小さいうちはnの増加に対して大きくなっていきますが、 nが大きくなると n n+1の差が小さくなっていき、次第に1に近づいていきます。

つまり、市場に存在する企業数が増加すると市場全体の供給量は増えていきますが、増加の仕方は次第に弱くなっていくという関係が読み取れます。また、 n→∞の極限で市場供給量は \displaystyle \frac{A-c}{\alpha}に収束します。

 

また市場価格は

 \displaystyle p^* = A - \alpha Y^* = A - \frac{n}{n+1}(A-c) 

 \displaystyle p^* = \frac{1}{n+1}A + \frac{n}{n+1}c

 \displaystyle p^* = c + \frac{1}{n+1}(A-c) 

となります。完全競争では価格p=限界費用cが利潤最大化条件となっていました。一方n社クールノー競争では、価格 p = 限界費用 cマークアップ \displaystyle \frac{1}{n+1}(A-c)となっています。マークアップとは費用に上乗せされる利潤分のことで、完全競争ケースではマークアップ0(利潤0)ということです。この式から分かるように、クールノー競争におけるマークアップは企業数 n反比例するため、企業数が増えるほどマークアップが縮小するという関係が見られます。 n→∞の極限ではマークアップは0に収束します。このようにクールノー競争において企業数を無限大に増やすと価格が限界費用に収束し完全競争のケースと一致することをクールノー極限定理と言います。

(数学的に書くと)

\displaystyle \lim_{n\to\infty} p^* = c 

 

最後に、最大化された企業の利潤は

 \displaystyle \pi^* = y^*(p^*-c) = \frac{A-c}{(n+1)\alpha}\frac{1}{(n+1)}(A-c) = \frac{1}{\alpha}\biggl(\frac{A-c}{n+1}\biggr)^2

となります。利潤は企業数の増加に対して急速に減少(2乗に反比例)していくことがわかります。

 

n社クールノーモデル(企業異質ver)

それでは今回の本題である異質企業n社クールノー競争を考えていきましょう。

異質な企業とは、限界費用 cが企業ごとに異なることを想定することです。

すなわち企業ごとに生産性が異なることを想定しています。生産性が高い企業ほど限界費用が小さくなるだろうということです。

すると反応関数が

 \displaystyle y_1^* =-\frac{1}{2}(y_2^*+y_3^*...+y_n^*) + \frac{A - c_1}{2\alpha}

となります。変わった部分は cが企業1固有の限界費用 c_1になったことです。

この反応関数を企業数 nに対して解くのは非常に大変です。

ひとまず n=3のケースについて解いてみます。

 \displaystyle \frac{A-c_1}{2\alpha} = y_1^* +\frac{1}{2}y_2^*+\frac{1}{2}y_3^*

 \displaystyle \frac{A-c_2}{2\alpha} = y_2^* +\frac{1}{2}y_1^*+\frac{1}{2}y_3^*

 \displaystyle \frac{A-c_3}{2\alpha} = y_3^* +\frac{1}{2}y_1^*+\frac{1}{2}y_2^*

この3本の連立方程式を解けばいいわけですが、愚直に計算するとなかなか大変です。

なので、この連立方程式を行列表記にしてみましょう。

f:id:Taku_Antoine:20190725140151j:plain

行列で表すことで、右辺の y^*のベクトルに左からかかっている係数行列の逆行列を左からかければ解が簡単に求まることが分かります。

f:id:Taku_Antoine:20190725140607j:plain

この係数行列の逆行列は簡単に計算することができます。

([2019/07/27: 追記] 自動計算するアプリをご用意しました。

分数表示が既約分数じゃないの許して…shiny上でMASSのfractionsが機能しないのです…shiny上で綺麗に少数を分数化して表示できる方法をご存知の方がいらっしゃいましたらご教示願います…

f:id:Taku_Antoine:20190725140935j:plain

  y_1^*の値を書いてみます。

 \displaystyle y_1^* = \frac{3A-3c_1}{4 \alpha} - \frac{A-c_2}{4 \alpha} - \frac{A-c_3}{4 \alpha}

 \displaystyle y_1^* = \frac{A-3c_1+c_2+c_3}{4 \alpha}

となります。以上の式からわかるように、企業 1の最適供給量は自社の生産性が高い(限界費用が小さい)ときや他社の生産性が低い(限界費用が大きい)ときに多くなるということが分かります。

企業1の最適供給量の式を少し変形します。

 \displaystyle y_1^* = \frac{A-4c_1+c_1+c_2+c_3}{4 \alpha}

単に c_1を引いて足しただけなので、値は変わっていません。

ここで、全企業の(算術)平均限界費用 \bar{c}を以下のように定義します。

 \displaystyle \bar{c} = \frac{1}{3}(c_1+c_2+c_3) 

 \bar{c}の定義式の両辺に3をかけると

  3 \bar{c} = (c_1+c_2+c_3)

この右辺は先ほどの企業1の最適供給量の中にありましたね。

この式をそのまま企業1の最適供給量の式に代入して整理します。

 \displaystyle y_1^* = \frac{A-4c_1 + 3 \bar{c}}{4 \alpha}

 \displaystyle y_1^* = \frac{A-\bar{c} +4(\bar{c}-c_1)}{4 \alpha}

 \displaystyle y_1^* = \frac{A-\bar{c}}{4 \alpha}+\frac{1}{\alpha}(\bar{c}-c_1)

 より解釈がしやすい形になりました。

右辺1項目は同質企業クールノー競争の最適供給量に対応する部分であると考えられます。全ての企業の平均的な供給量水準を表しています。そして2項目は市場に存在する企業の平均的な限界費用と自社の限界費用偏差となっており、全体平均に比べて生産性が高い企業は供給量が多く、生産性が低い企業は供給量が少なくなることを表しています。

右辺1項目が同質財クールノー競争の最適供給量に対応しているなら、企業数 nに対して以下のような形になるのではないかと予想することができます。 

 【再掲】n社同質企業クールノー競争の最適供給量

 \displaystyle y^* = \frac{A - c}{(n+1)\alpha} より

 

 \displaystyle y_1^* = \frac{A-\bar{c}}{(n+1) \alpha}+\frac{1}{\alpha}(\bar{c}-c_1)

 

実際に4社、5社ケースの異質企業クールノー競争の最適供給量を求めてみればこの式は正しいことが確認できます。(筆者は100社まで確認しました。)

こうして(やや天下り的ではありますが)n社異質企業クールノー競争の最適供給量の式を導くことができました。

 

市場総供給量 Y^*

 \displaystyle \sum_{i = 1}^{n}y^*_i = Y^* = n×\frac{A-\bar{c}}{(n+1) \alpha} + \frac{1}{\alpha}\sum_{i = 1}^{n}(\bar{c}-c_i)

と書けます。右辺2項目は算術平均からの偏差の1乗和なので0になります。よって

  \displaystyle Y^* = \frac{n}{n+1}\frac{A-\bar{c}}{\alpha}

となり、同質企業クールノーと似た形になります。

異なる点は、同質企業クールノーでは全ての企業に共通の限界費用 cが入っていたところが異質企業クールノーでは市場に存在する全ての企業の限界費用の算術平均に変わっています。

同質企業クールノー競争の世界の全ての企業の限界費用の平均は結局 cなので、この式は同質企業クールノー競争でも成り立っていると解釈することができます。

 

市場価格 p^*

 \displaystyle p^* = A - \alpha Y^* = A - \alpha \frac{n}{n+1}\frac{A-\bar{c}}{\alpha} 

 \displaystyle p^* = \bar{c} + \frac{1}{n+1}(A-\bar{c}) 

となります。クールノー極限定理は市場内で平均的な生産性を持つ企業においては成立することがわかります。

限界費用が平均のときのマークアップ率(限界費用と価格の乖離率) \bar{\mu}とすると

   \displaystyle \bar{\mu} = \frac{p^*-\bar{c}}{\bar{c}} = \frac{1}{n+1}\frac{A-\bar{c}}{\bar{c}}

となります。平均マークアップ率は平均限界費用の最高留保価格との乖離率を企業数+1で割ったものになっています。

 \bar{\mu} n \to \inftyの極限で0に収束することが分かります。

 \displaystyle \lim_{n\to\infty} \bar{\mu} = 0 

企業1のマークアップ率を \mu_1とすると以下のように書くことができます。

\displaystyle \mu_1 = \frac{p^*-c_1}{c_1} = \frac{\bar{c}-c_1}{c_1}+\frac{1}{n+1}\frac{A-\bar{c}}{c_1}

\displaystyle \mu_1 = \frac{\bar{c}-c_1}{c_1}+\frac{1}{n+1}\frac{A-\bar{c}}{\bar{c}}\frac{\bar{c}}{c_1} = \frac{\bar{c}-c_1}{c_1} + \bar{\mu}\frac{\bar{c}}{c_1}

以上の式から、個別企業のマークアップ率は

高くなることがわかります。

 

最後に、利潤 \piを示して終わります。

企業1の利潤は

 \pi_1 = y_1^*(p^*-c_1) 

 \displaystyle \pi_1 = \frac{1}{\alpha}\biggl((\bar{c}-c_1)+\frac{A-\bar{c}}{n+1}\biggr)^2

 限界費用が平均の場合の利潤 \bar{\pi}

 \displaystyle \bar{\pi} = \frac{Y^*}{n}(p^*-\bar{c})

 \displaystyle \bar{\pi} =\frac{1}{\alpha}\biggl(\frac{A-\bar{c}}{n+1}\biggr)^2

となります。

寄与度と寄与率、そして掛け算の要因分解

今回は寄与度と寄与率についてざっと見て思い出せるように簡単なまとめをしようと思います。

 寄与度と寄与率は概念的にそれほど難しくない(ハズ)のですが、いざ思い出そうとすると頭の中がごちゃごちゃしがちですよね(というか僕がそう)。

というわけで、今回は細かい概念的なことは一旦置いて、式変形を中心に簡単に説明します。

 

 

☆寄与度

説明の例として以下のGDP恒等式を使います。

 \displaystyle Y_t = C_t + I_t + G_t + NX_t

それぞれの記号の意味は以下の通りです。

  •  Y_t:  t年のYield(国内総生産: GDP)
  •  C_t:  t年のConsumption(国内の総消費)
  •  I_t:  t年のInvestment(国内の総投資)
  •  G_t:  t年のGovernment expenditure(政府支出)
  •  NX_t:  t年のNet eXport(純輸出: 輸出額から輸入額を引いたもの)

 

それでは t年の経済成長率 ( t年にGDPが何%変化したか)を計算してみましょう。

変化率は

 \displaystyle \frac{変化後の値-変化前の値}{変化前の値}

 と計算すればいいので、 t年の経済成長率は

 \displaystyle \frac{Y_t-Y_{t-1}}{Y_{t-1}}

と計算することができます。

最初に示したGDP恒等式の左辺がこの式と同じになるように式を変形すればよいので

 Y_t- Y_{t-1}  = C_t + I_t + G_t + NX_t -  Y_{t-1}

といった感じで両辺から Y_{t-1}を引きます。

 Y_{t-1}においてもGDP恒等式が成り立っていると考えられるので

 Y_{t-1} = C_{t-1} + I_{t-1} + G_{t-1} + NX_{t-1}

を右辺の Y_{t-1}にだけ代入する。

 Y_t-Y_{t-1} = (C_t-C_{t-1}) + (I_t-I_{t-1}) + (G_t-G_{t-1}) + (NX_t-NX_{t-1})

最後に、両辺を Y_{t-1}で割ると

 \displaystyle \frac{Y_t-Y_{t-1}}{Y_{t-1}} = \frac{C_t-C_{t-1}}{Y_{t-1}} + \frac{I_t-I_{t-1}}{Y_{t-1}} + \frac{G_t-G_{t-1}}{Y_{t-1}} + \frac{NX_t-NX_{t-1}}{Y_{t-1}}

となり、これが寄与度分解の式です。

寄与度分解はある変数の値の変化率をその変数の各構成項目要因に分解することだということがお分かりになるでしょうか。

例えば「経済成長率が3%だとして、そのうち消費要因は2%だった」といった考え方になります。全ての構成項目の寄与度を合計すると経済成長率に一致します。

 

☆寄与率

ここまでくれば寄与率は簡単で、寄与度は全ての構成項目を合計すると全体の変化率(ここでは経済成長率)に一致しましたが、寄与率は全ての構成項目で合計すると1になるようにしたものです。

先ほどの例を用いて説明すると、経済成長率が3%、消費の寄与度が2%の場合は消費の寄与率は

 \displaystyle \frac{消費の寄与度}{経済成長率} = \frac{0.02}{0.03} ≈ 0.666....

です。

これは寄与度の式の両辺に経済成長率の逆数をかける(経済成長率で割る)という操作に対応します。

\displaystyle \frac{Y_{t-1}}{Y_t-Y_{t-1}}  \displaystyle \frac{Y_t-Y_{t-1}}{Y_{t-1}} =

\displaystyle \frac{Y_{t-1}}{Y_t-Y_{t-1}} \displaystyle \left(\frac{C_t-C_{t-1}}{Y_{t-1}} + \frac{I_t-I_{t-1}}{Y_{t-1}} + \frac{G_t-G_{t-1}}{Y_{t-1}} + \frac{NX_t-NX_{t-1}}{Y_{t-1}}\right)

左辺は約分して1になり、右辺も Y_{t-1}が約分で消えるので

 \displaystyle 1 = \frac{C_t-C_{t-1}}{Y_t-Y_{t-1}} + \frac{I_t-I_{t-1}}{Y_t-Y_{t-1}} + \frac{G_t-G_{t-1}}{Y_t-Y_{t-1}} + \frac{NX_t-NX_{t-1}}{Y_t-Y_{t-1}}

これが寄与率分解の式です。

寄与率の合計が1になる理由がこれで明らかだと思います。

今回は例としてGDP恒等式を用いましたが、複数の構成要素の和で表すことができる変数ならなんでも寄与度・寄与率に分解できます。

 

おまけ 構成比を用いた式

寄与度の説明で【前期の各項目のシェア】が登場することもあります。

これも式を少し変えることで簡単に導出できます。

具体的には、寄与度の式

 \displaystyle \frac{Y_t-Y_{t-1}}{Y_{t-1}} = \frac{C_t-C_{t-1}}{Y_{t-1}} + \frac{I_t-I_{t-1}}{Y_{t-1}} + \frac{G_t-G_{t-1}}{Y_{t-1}} + \frac{NX_t-NX_{t-1}}{Y_{t-1}}

の右辺をご覧ください。

簡単化のため、消費の項だけ考え、以下のような変換をします。

 \displaystyle \frac{C_t-C_{t-1}}{Y_{t-1}} \frac{C_{t-1}}{C_{t-1}}

これは単に1をかけているだけなので、何も変化していませんね。

( t-1期の消費を t-1期の消費で割ると1)

また、(この場合は)掛け算の順番を入れ替えても問題ないので

 \displaystyle \frac{C_t-C_{t-1}}{C_{t-1}} \frac{C_{t-1}}{Y_{t-1}}

この式は t期の消費の変化率 × t-1期のGDPに占める消費のシェア(割合)になってます。しかし実質的に行った操作は1をかけるだけだったので、値自体は一切変わっていません。よって、全ての項に対してこの操作を問題なく行うことができます。

 \displaystyle \frac{Y_t-Y_{t-1}}{Y_{t-1}} = \frac{C_t-C_{t-1}}{C_{t-1}}\frac{C_{t-1}}{Y_{t-1}} + \frac{I_t-I_{t-1}}{I_{t-1}}\frac{I_{t-1}}{Y_{t-1}} + \frac{G_t-G_{t-1}}{G_{t-1}}\frac{G_{t-1}}{Y_{t-1}} + \frac{NX_t-NX_{t-1}}{NX_{t-1}}\frac{NX_{t-1}}{Y_{t-1}}

こうして、寄与度分解の式を【前期の各項目のシェア】を用いて再解釈することができました。

 

おまけ2 掛け算の要因分解

先ほど申し上げたように、寄与度・寄与率の分解は足し算(その逆の引き算も)関係の場合に適用できる方法です。

じゃあ掛け算で構成されている変数の変化の要因分解はできないのか…?というとできます

先ほどの例は需要サイドからGDPを見た式でしたが、供給サイドからGDPを再解釈します。

すると、 Y_tは以下の生産関数で表すことができます。

 Y_t = A_tK_t^{\alpha}L_t^{1- \alpha}

 今度はGDP Y_t

で構成されると考えます。先ほどの例ではGDPは複数の変数の足し算で構成されていましたが、今回は掛け算で構成されていますね。

それでは掛け算の場合はどのように要因分解すればよいでしょうか?

私たちは既に足し算の場合の要因分解ができるとわかっているので、掛け算を足し算にするような変換があれば良いようなきがします。

そう、両辺対数に変換すれば良いのです。

ここでは底をe(ネイピア数)とした対数である自然対数(natural logarithm)を使います。

先ほどの生産関数を両辺対数をとると、

 ln(Y_t) = ln(A_t) + \alpha ln(K_t) + (1- \alpha)ln(L_t) 

対数をとると、掛け算は足し算に、指数は係数になります(実は言ってることは同じ)。さらに両辺対数に変換する場合には等式関係が成り立ったままになります。 

それでは、寄与度分解と同じように、1期前の値を両辺から引いてみましょう。

 ln(Y_t)-ln(Y_{t-1}) = ln(A_t)-ln(A_{t-1}) + \alpha (ln(K_t)-ln(K_{t-1})) + (1- \alpha)(ln(L_t)-ln(L_{t-1})) 

対数の引き算は変化率に近似一致することが知られています。

(なぜそうなるかの話は機会があればTaylor展開編としてお話します) 

 \displaystyle ln(x_t)-ln(x_{t-1}) ≈ \frac{x_t-x_{t-1}}{x_{t-1}}

以上より、経済成長率

 \displaystyle \frac{Y_t-Y_{t-1}}{Y_{t-1}} ≈ \frac{A_t-A_{t-1}}{A_{t-1}} + \alpha \frac{K_t-K_{t-1}}{K_{t-1}} + (1- \alpha)\frac{L_t-L_{t-1}}{L_{t-1}}

 となり、掛け算のケースでも成長率の要因分解ができることが分かりました。

利潤関数の意味と使い方

今回は基礎 of 基礎

利潤関数とはなんぞやというお話です。

 

 【関連知識】

・効用関数

・生産関数

・経済学における関数の使い方

微分

 ・最大化問題の定式化

そもそも利潤とは

経済学で利潤というと、企業行動を考える際に企業がこれを最大化するように行動するだろうと仮定する経済目的です。

経済学では経済主体が各々自分の経済目的を最大化するだろうと仮定して行動モデルを構築します。

なんのことやら、という感じですよね。

経済主体は主に企業、家計、政府などを指します。

そしてそれぞれに対応する経済目的、すなわち行動目標を考えます。

企業の場合は利潤、家計の場合には効用を考えることが圧倒的に多いです。

(政府の場合は少し特殊なので一旦置きます。)

例えば効用の場合では、私たちはものを購入して消費する上で、できる限りその消費から得られる幸福感(これを効用といいます)を大きくするように行動するだろうと想定しようということです。

ここで注意しなければならないのは、ここで述べていることは企業はすべからく利潤を最大化すべしという一定不変の原理があるということではないということです。

企業が利潤だけを追求しているとは言い難い状況は多々存在します(CSR等)。

しかし、一般的な状況において少なからず企業は利潤を最大化しようと思っているはずです。(社会的責任を追及したとて、企業が存続不可能になってしまっては本末転倒)

つまり、ここで述べていることは多くの場合において利潤最大化行動というものを考えると企業の行動の良い近似になるという話で、必要ならば別の経済目的を想定することも可能であるということは注意してください。

 

利潤関数の一般的な形

利潤は計算上、総収入から総費用を引いた値になります。

さらに総収入は生産・供給している財の価格と売った数の掛け算になります。

利潤を \pi、価格を p、売った数を y、総費用を tcとすると

 \pi = py-tc

となります。

この関数を愚直に詳しくしていくと相当複雑な関数になってしまうのが分かると思います。例えばtcは実際の会計で考えると様々な勘定科目に分けられています。

 \pi = py-(人件費+水光熱費+運賃+地代家賃+・・・)

経済学の理論ではこのような詳細な区分を全て分けるのではなく、そのとき想定している問題に応じて必要最低限の区分をするようにします。(オッカムの剃刀ですね)

今回は経済学分析で比較的よく用いられる区分の方法として2つ紹介します。

  

総費用の区分① 固定費用 vs 可変費用

1つ目の区分として固定費用可変費用があります。

こちらの定式化は市場を意識した分析でよく用いられます。

固定費用は生産量の変化に関係なく発生する費用のことです。

一方可変費用は生産量に応じて変化する費用のことです。

どら焼き屋さんの例でいうと、1か月単位のお話ではお店の家賃はどら焼きを何個作るかに関わらず一定でかかる費用なので固定費用です。一方、どら焼きの原材料費(小麦粉や小豆など)はどら焼きを作るほどたくさん必要になるので、可変費用となります。

ここで注意しなければならないのは、会計でいうところの固定費と変動費とは概念が違うということです。

会計では固定費と変動費に分類されるものは決まっています。

先の例でいう地代家賃は常に固定費だし、原材料費は常に変動費です。

一方経済学の固定費用可変費用は想定する問題の設定によって変わります。

先の例では1か月単位の問題を考えましたが、10年単位で考えるとどうでしょう。もしかすると5年後には新しい店舗を開きたいかもしれません。その場合家賃は2店舗分に増えますね。新しい店舗を開けば生産量は増えると考えるのが妥当です。このように、より長いスパンで考えると家賃はもはや固定費用ではなく可変費用であると捉えることもできます。

以上を踏まえて利潤関数の定式化をしてみましょう。

まず総費用tcが可変費用vcと固定費用fcに分けることができます。

 \pi = py-(vc+fc)

vcとfcの数式上の違いはなんでしょうか。具体例で見てみましょう。

vcは生産量によって変化するはずなので、生産量yの関数として表現できます。

 vc(y) = ay^b

 b=1ならば、生産1に対して常にaだけコストがかかるという単純な関数にすることができますね。

 vc(y) = ay

一方fcは生産量に関係ないはずなので、yを含む関数であってはいけません。

他の変数を含んでも問題ないですが、今回は単に定数と考えましょう。

 fc = c

以上の想定をすると、総費用tcは

 tc = ay+c

という単純な1次関数になります。

また、総費用tcの微分である限界費用mc = \frac{dtc(y)}{dy}を考えると

 mc(y) = \frac{dtc(y)}{dy} = \frac{dvc(y)}{dy}+0

となり、限界費用を考える場合には固定費用の項は消えてしまうことがわかります。

 

次に独占の場合と完全競争の場合の利潤最大化問題を定式化しましょう。

独占における利潤最大化

独占では市場に企業が1社しか存在せず、消費者は無数に存在すると仮定します。

独占企業は競争相手がいないため、財の価格と供給量のどちらもコントロールして利潤を最大化することができます。

すると利潤最大化問題は

 \underset{p,y}{max}  \pi(p,y) = py-tc(y)

と書くことができます。

この関数を何の制約もなくただ最大化しようと考えると、pをどこまでも大きくすれば \piをどこまでも大きくできるという結論になってしまいます。

いくら1社しか売り手が居ないからといって、無限に高い価格を付けるというのは不可能でしょう。なぜなら、買い手側が支払っていいと考える価格(留保価格)の最大値より高い価格をつけてしまえば需要が0になりそもそも物が売れないからです。

ということは、消費者の留保価格がこの利潤最大化問題の制約になります。

今回のケースでは逆需要関数と留保価格関数が一致するので、逆需要関数を用います。

逆需要関数を p(y)として、利潤関数のpに代入すると

 \underset{y}{max}  \pi(y) = p(y)y-tc(y)

となり、利潤関数はyの1変数関数になりました。よってFOCは

 \frac{d\pi(y)}{dy} = p(y)+\frac{dp(y)}{dy}y-mc(y) = 0

 ∴p(y)+\frac{dp(y)}{dy}y = mc(y)

左辺は総収入を供給量で微分したものを表し、限界収入と呼ばれるものになっています。つまり、独占企業の利潤最大化の条件は限界収入=限界費用になります。

 

完全競争における利潤最大化

完全競争市場では企業と消費者の両方が無数に存在する場合を仮定します。

独占と違い、完全競争では企業は価格をコントロールできません。

価格は市場で決定される均衡価格になっており、企業はこれを所与として利潤最大化行動を考えます。(このような仮定をプライステイカー、独占のケースのような仮定をプライスメイカといいます。)

 \underset{y}{max}  \pi(y) = p^ey-tc(y)

ここで、 p^eは市場均衡価格を示します。

 p^e市場メカニズムによって決定されるものであり、企業の利潤最大化問題においては外生的に与えられる値であることが独占のケースとの大きな違いです。

よってFOCは

 \frac{d\pi(y)}{dy} = p^e-mc(y) = 0

 ∴p^e = mc(y)

つまり、完全競争市場においては、市場均衡価格=限界費用が企業の利潤最大化の条件になります。

 

総費用の区分② 労働 vs 資本

もう1つは労働と資本という分け方です。

労働と費用は経済学で想定する生産に必要な要素(生産要素)です。

例えばどら焼き屋さんでいうと、労働は従業員、資本はどら焼き製造機のことです。

企業は生産活動で得た収入のうち、労働に対しては賃金、資本に対してはレンタル料としてある程度の割合を分配します。

この分配の割合がどうなっているのかは古くから経済学の問題として議論されてきた重要な話です。(リカードさんもそうおっしゃっている!)

ゆえに、生産を意識した分析では総費用を賃金と資本へのレンタル料という区分で分けることがよくあります。

資本投入量をK、資本投入1単位当たりのレンタル料支払いをrとし、労働投入をL、労働投入1単位当たりの賃金支払いをwとすると総費用tcは

 tc = rK+wL

となります。

また、供給量=生産量と仮定して総収入の売った数の部分を生産量に書き換えます。

生産量は生産関数によって決まり、 Y(K,L)と書けるとします。

すると、利潤関数は結局

 \pi = pY(K,L)-(rK+wL)

と書くことができます。

 

利潤最大化

利潤最大化問題は以下のように定式化できます。

 \underset{K,L}{max}  \pi(K,L) = pY(K,L)-(rK+wL)

今回の制御変数はKとLです。

制御変数は企業が利潤最大化するときに調整することができる変数なので、資本と労働の投入量になるわけですね。

 \pi(K,L)をそれぞれKとLで偏微分してFOCを導くことができる。

 \frac{\partial \pi(K,L)}{\partial K} = p\frac{\partial Y(K,L)}{\partial K}-r=0

 ∴\frac{\partial Y(K,L)}{\partial K} = \frac{r}{p}

この条件は資本の限界生産力が投入1単位当たりの資本の実質レンタル料と等しくなるまで資本投入を調整することが利潤を最大化する行動であることを示しています。

 同様に労働

 \frac{\partial \pi(K,L)}{\partial L} = p\frac{\partial Y(K,L)}{\partial L}-w=0

 ∴\frac{\partial Y(K,L)}{\partial L} = \frac{w}{p}

この条件は労働の限界生産力が投入1単位当たりの実質賃金(賃金率)と等しくなるまで労働投入を調整することが利潤を最大化する行動であることを示しています。

 

クールノー学習 (2)均衡へ到達するプロセス

前回はクールノー競争の基本モデルを概観しました。

今回はその続きです。

 

 

〇前回たどり着いた連立方程式(再掲) 

 y^*_{1,t} = -\frac{1}{2}E_1(y_{2,t})+\frac{1}{2}(A-c_1)

 y^*_{2,t} = -\frac{1}{2}E_2(y_{1,t})+\frac{1}{2}(A-c_2)

【意味】

企業1のt期における最適生産量はt期における企業2の生産量の予測値で決まる

企業2のt期における最適生産量はt期における企業1の生産量の予測値で決まる

 

~企業1ビジョン~

前回は両企業の反応関数を導出して眺めていました。

しかし、それはある意味で神の視点で上からこの市場を眺めていたと言えます。

実際に意思決定する主体の企業1の気持ちになってこの問題を再考してみましょう。

 

企業1は自社の費用構造、生産財の市場での評価等の情報を持っており、以下の式に従って供給量を決定すれば今期の自社の利潤が最大化できることが分かっています。

 y^*_{1,t} = -\frac{1}{2}E_1(y_{2,t})+\frac{1}{2}(A-c_1)

具体的な数字を与えてみます。

 A = 100 c_1 = 10とおくと

 y^*_{1,t} = -\frac{1}{2}E_1(y_{2,t})+\frac{1}{2}(100-10)

 y^*_{1,t} = -\frac{1}{2}E_1(y_{2,t})+45

つまり、ライバル企業が全く供給をしなかった場合に45供給して、そこから相手の供給量2につき1供給を減らすのが最適であるという情報が企業1にはあります。

 ただし、企業2が今期にいくつ供給してくるのか、正確な情報はありません。

仮にこの経営者が聡明でライバル企業も自社と同じ構造の意思決定をするだろうということに気づいたとしても

  y^*_{2,t} = -\frac{1}{2}E_2(y_{1,t})+\frac{1}{2}(A-c_2)

という式の内 c_2の部分、相手の生産費用の正確な情報がわからないでしょう。

さらに言えば、相手が自社の供給量を予測した値 E_2(y_{1,t})を知るためには相手企業の予測形成プロセスが分からなければなりません。

そこで次善の策として、過去の企業2の供給量の情報から今期の供給量を予測するという方策が考えられます。

 

クールノー学習

では実際にどのように予測しましょうか。

ここでは最も素朴ともいえる方法、クールノー学習プロセスに従うと仮定します。

 このプロセスではプレイヤーは相手の前期の戦略を今期もそのまま取ってくると考えると仮定するのです。

つまり今回のケースでいうと、企業1は企業2の前期の供給量を今期の供給量の予測値とするということです。

 E_1(y_{2,t}) = y_{2,t-1} 

 y_{2,t-1}はt期の段階では既に企業1が観測している情報なので、最適反応関数を計算することができます。

 y^*_{1,t} = -\frac{1}{2}y_{2,t-1}+45

例えば企業2が前期20供給していた( y_{2,t-1}=20)とすると、

企業1は今期 y^*_{1,t} = -\frac{1}{2}×20+45 = 35供給することになります。

 

もちろん、企業2も企業1と同様にクールノー学習しているとすれば、

 y^*_{2,t} = -\frac{1}{2}y_{1,t-1}+\frac{1}{2}(A-c_2)

 となり、企業1と合わせると連立方程式になることがわかります。

 y^*_{1,t} = -\frac{1}{2}y_{2,t-1}+\frac{1}{2}(A-c_1)

 y^*_{2,t} = -\frac{1}{2}y_{1,t-1}+\frac{1}{2}(A-c_2)

(余談 

筆者はこれを連立差分方程式と呼んでもいいかなと思ったのですが、差分方程式の定義から考えて自身とその過去の変数が同じ式に含まれていないと差分の関係式とは言えないか…?いやでも1期前の企業2の供給量が2期前の企業1の供給量の関数だから今期の企業1の供給量と2期前の企業1の供給量の関数にはできるかな?等々色々考えてます。

どなたか詳しい方はご教示願いたいです。

このまま連立方程式を同次形に直して係数行列の固有値を計算して収束の判定をしたり、一般的に解いたり(時間だけの関数にしたり)することも可能ですが、またの機会に譲ります。)

 

今回はこの定常解がどうなるかと、実際に数値計算してどのように収束していくのかの様子を観察します。

 

定常解(といってもこれって…?)

定常解とは時間的に一定で変わらない状態である定常状態における解のことです。

つまり今回の例でいうと(かみ砕きます)、この連立方程式が示す意思決定プロセスに従う2つの企業がどんな供給量に落ち着くかを調べるということです。

具体的に数式で書くと、 y_{1,t}=y_{1,t-1}=y^s_1かつ y_{2,t}=y_{2,t-1}=y^s_2が成り立つときです。ここで、 y^s_1 y^s_2はそれぞれ企業1と企業2の定常状態における供給量を示します。定常状態ではt期もt-1期も(さらにそれ以前も)供給量が同じ(時間に依らない)はずなので、これらは全て同じ値になるだろうということです。

 結果、連立方程式は以下のようになります。

 y^s_1 = -\frac{1}{2}y^s_2+\frac{1}{2}(A-c_1)

 y^s_2 = -\frac{1}{2}y^s_1+\frac{1}{2}(A-c_2)

この式は計算できますね。

いや計算できるもなにも、この式は静学モデルのときのクールノー競争の式と同じものですよね(最適反応 y^*だったのが定常値 y^sに変わっただけ)。

つまりこの連立方程式の解は計算するまでもなく

 (y^s_1,y^s_2) = (\frac{A-2c_1+c_2}{3},\frac{A-2c_2+c_1}{3})

になります。

 結果として、クールノー学習プロセスを仮定した場合でも最終的には静学モデルと同じ解に収束していく(もちろん収束条件が満たされていればですが)ことが分かります。

 

数値計算

これだけだと胡散臭いので(少なくとも私はそう思います)、具体的な数字を入れてみて本当にそうなるのか見てみたいと思います。

パラメータ(事前に置く値)は、 A=100、c_1=c_2=10としてみましょうか。

すると、それぞれの反応関数は

 y^*_{1,t} = -\frac{1}{2}y_{2,t-1}+45

 y^*_{2,t} = -\frac{1}{2}y_{1,t-1}+45

となりますね。

この体系を計算するには初期値(最初の期の供給量)を与えてあげないといけないので、初期値 (y_{1,0},y_{2,0}) = (45,0)としましょう。0期には企業1の独占です。

以上のセットアップで1期のそれぞれの供給量を計算してみましょう。

まず企業1は y^*_{1,1} = -\frac{1}{2}×(0)+45 =  45で0期と変わらず。

次に企業2は y^*_{2,1} = -\frac{1}{2}×(45)+45 =  22.5で供給を増やしています。

続いて2期。

企業1:  y^*_{1,2} = -\frac{1}{2}×(22.5)+45 =  33.75と供給減

企業2:  y^*_{2,2} = -\frac{1}{2}×(45)+45 =  22.5で据え置き

ついでに3期

企業1:  y^*_{1,3} = -\frac{1}{2}×(22.5)+45 =  33.75と据え置き

企業2:  y^*_{2,3} = -\frac{1}{2}×(33.75)+45 =  28.125で供給増

とまあこの辺りで十分でしょう。

なんとなくパターンが見えてきましたね。

だんだんと同じ供給量に近づいていきそうな感じがします。

この収束先が先ほど求めた定常解なわけです。

このセットアップにおける定常解は

 (y^s_1,y^s_2) = (\frac{100-2×10+10}{3},\frac{100-2×10+10}{3}) = (30,30)

となるので、このまま計算を続けていけばこの値に収束していきます。

今回は限界費用の値を両企業で同じにしたので定常では同じ供給量になりますが、もちろん異なる値にすれば異なる値に収束します。

 以下の図1と図2はそれぞれ同じ初期値から計算した企業1と2の供給量の推移です。

図1は c_1=c_2=10、図2は c_1=1、c_2=20の設定でそれぞれ計算しました。

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図1

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図2


(縦軸は供給量、横軸は期間を表している)

定常均衡値は解析的に求めた式にセットアップ毎のパラメータを代入して計算しております。

限界費用が異なるセットアップでは、限界費用が低い企業は供給量が大きい値に収束し、限界費用が高い企業は供給量が小さい値に収束していることがわかります。

そしてもちろんどちらのセットアップでも解析的に求めた定常均衡値と数値計算で20期間計算した値がほぼ一致し、収束していることが見て取れます。

 

まとめ

今回はクールノー学習プロセスというものを導入して時間的広がりがある場合のクールノー競争がどのようにして定常解に収束していくのかを見てきました。

結果として、クールノー学習(単に前期の実現値を今回の予測値とする)といった単純なプロセスでも静学モデルで予測された均衡に辿り着けることがわかりました。

今回はクールノー学習のみを扱いましたが、予測値を形成する方法は他にも色々と考えられます。例えば、過去の実現値の平均値をとる場合過去の一定期間までの情報を使う場合等々。学習方法を変えることで①その学習方法で同じ均衡に辿り着けるのか?②均衡に収束するまでの期間は伸びるのか?縮まるのか?等の議論もできるようになり非常に面白いです。また、③別の学習法を取る企業同士を競争させると均衡が変化するか?なども興味深い点であると思います。

今回の計算はExcelやその他プログラミング言語等で簡単にできますし、アレンジも容易なので皆様も色々なセットアップや学習方法で試してみると面白い発見があるかもしれません。

 

次回は、財の異質性の拡張についてとできればベルトラン競争について若干触れたいなぁと思っています。

ご挨拶と当ブログの内容についてと注意書き

はじめまして。

ブログ管理者のTaku_Antoineと申します。

 

当ブログは応用数学としての経済学、及び統計学等についての記事がメインとなります。ただし、これらの内容を網羅的に扱うというよりは私の考え方や学んだことの備忘録といった感じになります。ゆえに、間違った解釈数式的誤りなどは頻発することが予想されます。あらかじめご了承ください。また、特定の一次資料に強く依拠した内容の記事を掲載した場合は参考文献として末尾に記載させていただく予定ですが、本ブログ上にあるすべての誤りは私に帰属するものなので、一次資料の執筆者様や出版社様等の責任は一切ございません。また数学を多用する性質上、思想的に偏った記事を掲載することはあまり想定しておりませんが、本ブログ上での発言は全て私の個人的な意見であり、特定の機関を代表したり特定の個人や団体を中傷する意図はありません。

 

以上をご留意のほどよろしくお願いいたします。

 

コメント等での質問、誤りの指摘、ご教示等は大歓迎なのでお気軽にお願いします

Taku_Antoine

クールノー学習 (1)基本のクールノー競争モデル

経済学部時代、私が一番面白いと思った内容はクールノー競争というものです。

 

 

どこが面白いか

一般的にクールノー競争では企業が2社だけ存在し(ここの企業数を任意の数nに拡張することもできる)、それぞれ財の供給量をコントロールして利潤を最大化するという状況を考えます。

また、設定としてこの2社の技術や供給している財が同質なのか、それとも異質なのかといったバリエーションを持たせることができます。

ここでは企業はそれぞれ技術的に異質(財を追加的に生産するときの限界費用が異なる)で、供給している財は同質(同じ市場で同様に評価され、同一の価格が付く)と仮定します。

2社の企業をそれぞれ企業1、企業2とすると、企業1の利潤は

\pi_1 = p(y_1+y_2)y_1-tc(y_1)

というふうに書けます。(利潤関数がこの形になる理由が分からない方はこちら)

y_1y_2はそれぞれ企業1と2の供給量

p(y_1+y_2)は両企業の供給量に対する市場価格(逆需要関数)

tc(y_1)は企業1の生産に対するコスト(費用関数)です。

供給量を動かして利潤を最大化するということは、利潤の関数を自社の財の供給量y_1偏微分し、その偏導関数が0になる点を求めればよいので(極値を持つかどうかの話は一旦置く)

\frac{\partial \pi_1}{\partial y_1} = p(y_1+y_2)+\frac{\partial p(y_1+y_2)}{\partial y_1}y_1-\frac{dtc(y_1)}{dy_1} = 0

p(y_1+y_2)+\frac{\partial p(y_1+y_2)}{\partial y_1}y_1 = \frac{dtc(y_1)}{dy_1}

という条件を導けます。

(費用関数の項を右辺に移項して)この式をよく眺めてみると

左辺第1項は市場価格そのものを表しており、追加的に財を1つ売ったときの追加的な収入を表しています。

左辺第2項は既存の売った数に自分が供給を増やしたことによる市場価格の変化をかけたものになっています。

つまり左辺は全体で供給量を変えたことによる売上の変化を表しており、これを経済学では限界収入といったりします。

 一方の右辺は、生産量を(ほんの少し)変化させたときの費用の変化を表しており、同じく経済学で限界費用と呼ばれるものです。

つまり追加的に供給を増やす場合に追加的な収入と費用が等しくなるまで供給することが利潤を最大化する行動であることがわかります。

この話は独占(企業が1つしかない場合)で習ったという方がほとんどだと思います。複占になろうがこの考え方自体は変わりません。

しかし、複占と独占ではある重要な点が異なります。

複占では限界収入が相手の企業の供給量y_2にも依存してしまっている点です。

このように相手の行動に応じて自分の最適な行動が変化したり、その逆が起こってしまうような状況のことを戦略的状況といいます。

伝統的なミクロ経済学では、企業が無数に存在するという仮定を置いて企業間の影響を十分無視できるとしたり、企業が1社しかいないという仮定を置いたりしてこの戦略的状況をうまいこと回避しています。

この戦略的状況を専門に扱う学問分野のことをゲーム理論と呼びます。

複占は重要な経済学イシューでありながら、ゲーム理論的状況を想定しているという点で完全競争や独占とは少し異質でそこが私が面白いと感じたところです。

クールノーナッシュ均衡

ゲーム理論それ自体を開発したのは火星人ジョン・フォン・ノイマンオスカー・モルゲンシュテルンです。

その後ジョン・ナッシュが戦略の均衡概念であるナッシュ均衡を提唱し、このクールノー競争もナッシュ均衡解を持つことがわかっています。

ナッシュ均衡は(かなり噛み砕いてしまうと)、互いに最適な戦略を取り合っていればいいということです。どちらかが戦略を変えることで利得(ゲーム理論流の言い方。ここでいう利潤)を上げることができるとそれはナッシュ均衡ではないです。

頭を使って考えると複雑そうですが、こういった場合は数式や図に頼るのが効果的です。

クールノー競争でいえば、最適反応関数というものを作ってしまえばいいのです。

今回のプレイヤー達が戦略として操作できるのは財の供給量なので、相手の供給量に対して自分がいくつ供給すれば利潤が最大化するのかを返してくれる関数を作ればうまくいきそうですよね。

 y^*_1 = r(y_2)

ここで、 y^*_1は企業1の最適反応供給量とします。

それがともかく y_2の関数で表せれば目標の最適反応関数と呼ぶにふさわしそうであることがわかります。

いい感じに y_2とその y_2の値に対応する利潤最大化供給量 y^*_1の関係式を作れないかと考えると、企業1の利潤最大化の条件式が使えそうであることに気づきます。

企業1の利潤最大化の条件式を満たす y_1は間違いなく利潤最大化している ( y^*_1)といえるし、限界収入が y_2にも依存するので願ってもないほどぴったりです。

とりあえずここでは、見通しをよくするために需要関数と費用関数に適当な関数形を与えてしまいます。(その代わり一般性は多少犠牲になります。この世は常にトレードオフ)

今回は以下のような線形の逆需要関数を想定します。

 p(y_1+y_2) = A - (y_1+y_2) 

企業1の財も2の財も供給が1つ増えれば価格が1下がるというもっとも単純な逆需要関数です。

例えばAが100でy_1=y_2=20ならば、市場価格は60となります。

可変費用は1つあたりc_1だけコストがかかるものとします。

また、固定費用は0とします。(0でなくてもいいが、後で微分で消えるので一緒)

すると費用関数は以下のようになります。

 tc(y_1) = c_1y_1

限界費用はこの微分なので、そのままc_1になることがわかります。

(ここで、 c_1とせずに単に cとすれば技術的に同質な企業を仮定していることになります。)

 企業1の利潤最大化条件にこれらの関数を代入すると、

p(y_1+y_2)+\frac{\partial p(y_1+y_2)}{\partial y_1}y_1 = \frac{dtc(y_1)}{dy_1}

 A-y_1-y_2+(-1)×y_1= c_1

 y^*_1 = r_1(y_2) = -\frac{1}{2}y_2 + \frac{1}{2}(A-c_1)

こうして最適反応関数が導けました。

もちろん企業2に対しても同様に 

 y^*_2 = r_2(y_1) = -\frac{1}{2}y_1 + \frac{1}{2}(A-c_2)

という最適反応関数が導けます。

ナッシュ均衡はお互いが最適反応を取っている状態のことをいうので、それぞれの反応関数の右辺にある y_1 y_2も最適反応であればよさそうです。すると、以下のような2元1次の簡単な連立方程式を解く問題に帰着できます。

 y^*_1 = r_1(y^*_2) = -\frac{1}{2}y^*_2 + \frac{1}{2}(A-c_1)

 y^*_2 = r_2(y^*_1) = -\frac{1}{2}y^*_1 + \frac{1}{2}(A-c_2)

結局、この解は

 (y^*_1,y^*_2) = (\frac{A-2c_1+c_2}{3},\frac{A-2c_2+c_1}{3})

 となり、この解はクールノーナッシュ均衡です。

発展的な話

 こうして2社の企業が数量を操作して競争した場合の均衡を求めることができました(ただし、均衡の安定性については未議論)。この均衡解の式から色々比較静学してみたり(例えばc_1が増えた時にy^*_2はどうなるか)、独占のケースや完全競争のケースと市場供給量や価格を比較したり、余剰分析したりするのも味わい深いですね。2社が共謀するケースでは2社とも利潤がクールノー均衡よりも大きくなるので、クールノー均衡はパレート効率ではなかったなんて話をすれば、戦略空間が連続である場合の囚人のジレンマのアナロジーとしてクールノー均衡が捉えられるのでは等々面白い話はいくらでもありそうです。

しかし、学部で初めてクールノー競争を習った私はある違和感を抱きました。というのも、こんな計算は現実には不可能ではないか?ということです。

違和感

経済学では静学(statics)と動学(dynamics)といった分析方法の分類があります。前者はモデルの時間的な広がりをあえて取捨することで均衡における変数間の関係を取り扱う手法です。実は経済学ではしばしば現実は均衡状態にあると考えるため、均衡における経済変数の関係を考察できれば十分である場合も多いのです。先ほどの例でいうと、企業1の限界費用の低下(技術の向上と言い換えてもいい)は企業2の供給量にどう影響を与えるか?といった疑問は静学モデルで十分分析ができます。

一方で、均衡に到達するまでのプロセスを記述したければ時間的な広がりを持つ動学モデルである必要がでてきます。

私が抱いた疑問はこの時間的な広がりについてです。

先のクールノー競争モデルの利潤最大化の計算では企業1の利潤関数に企業2の供給量を直接代入していました。しかし、利潤最大化の計算を行っている段階にあるということは、企業1の供給量はこの段階でまだ決定されていないはずです。そして、企業1の供給量が不確定であるということは同様に企業1の供給量を考慮して供給量を決定する企業2もまだ供給量が決まっていないはずなのです。

つまり、企業1がある期(以降t期とする)に考慮する企業2の供給量はt期のものであるはずがないのです。なぜならt期の企業2の正確な供給量はまだ決定されていないからです。

では、t期の企業1は何を参照して今期の最適供給量を考えるでしょうか?それは企業2の過去の供給量のデータからt期の供給量を予測する信念(belief)です。

以上のややこしい話を数式に落とし込んでみましょう。

t期の企業1の利潤は

 \pi_{1,t}(y_{1,t},E_1(y_{2,t})) = p(y_{1,t}+E_1(y_{2,t}))y_{1,t}-c(y_{1,t})

と書けます。

ここで、E_1(y_{2,t})はt期における企業2の供給量を企業1が予測した値です。統計学でいうところの期待値ではないので注意。

添え字が増えてしまってややこしくなったものの、変わってしまったのは時間の添え字と企業2の生産量が予測値になったことだけです。ゆえに、静学モデルと同様の計算で以下の連立方程式が導けることがわかります。

 y^*_{1,t} = r_1(E_1(y_{2,t})) = -\frac{1}{2}E_1(y_{2,t}) + \frac{1}{2}(A-c_1)

 y^*_{2,t} = r_2(E_2(y_{1,t})) = -\frac{1}{2}E_2(y_{1,t}) + \frac{1}{2}(A-c_2)

一見静学モデルと大して変わらないように見えますが、それぞれの最適供給量と予測値が一致する等の仮定を置かなければこの連立方程式計算できないでしょう

 y^*_{1,t} = E_2(y_{1,t})

 y^*_{2,t} = E_1(y_{2,t}) 

t期の企業1の最適生産量と企業2の予想は等しい?

t期の企業2の最適生産量と企業1の予想は等しい?

 

次回は学習理論の話を少しだけ導入して、このモデルの均衡への収束過程を描いてみたいと思います。